倭姫命(やまとひめのみこと)

倭姫命は、第十一代垂仁天皇の皇女です。第十代崇神天皇の皇女豊鍬入姫命の後を継いで、「御杖代(みつえしろ)」として天照大神に奉仕され、天照大神を載いて大和国をお発ちになり、伊賀・近江・美濃などの諸国を経て、伊勢の国に入られて、御神慮によって、皇大神宮をご創設されました。
「御杖代」とは天照大神の御杖となって、御神慮を体して仕えられるお方の意です。倭姫命から後、代々の天皇は未婚の皇女を伊勢に遣わして天照大神に奉仕させられましたが、このお方を斎王(いつきのみこ)と申し上げます。

倭姫命は皇大神宮御鎮座ののち、神嘗祭をはじめとする年中の祭りを定め、神田並びに各種のご料品を奉る神領を選定し、禰宜、大物忌以下の奉仕者の職掌を定め、斎戒や祓の法を示し、神宮所属の宮社を定められるなど、神宮の祭祀と経営の基礎を確立されました。

御教え

中世以来、伊勢の神道説は正直・清浄を主徳とし、五部の神書をもってひろく唱道されました。殊にそのひとつ『倭姫命世記』は、倭姫命が宣り下された御教えが多く伝えられており、人々から大層尊重されてきました。
神から命を分け与えられたひとは、真心をそこなうことなく、正直と清浄の敬神生活を送らねばなりません。

人は天下の神物なり。心神を傷ましむことなかれ。
神は垂るるに祈祷をもって先となし、冥は加うるに正直をもって本となせり。
神を祭るの礼は、清浄をもって先となし、真信をもって宗となす。

また、自然の秩序さながら神仕えのまことをつくす左々右々、万事を根源に帰しみる元々本々など、神宮相伝の教えごとがみごとに語り示されております。

黒心なくして、丹心をもちて、清く潔く斎り慎しみ、左の物を右に移さず、右の物を左に移さずして、左を左とし右を右とし、左に帰り右に回る事も、万事違う事なくして、大神に仕え奉る。
元を元とし、本を本とする故なり。